ビデオカメラの性能評価

 この頃 アジアの旅行やドキュメンタリーを主題としたテレビの番組を見る事が多くなりました。例えば NHKでも雲南省や貴州省の映像を見る事があります。この時の映像と私たち一般人が所有しているビデオカメラの映像の差を感じます。私自身この差をなんとか埋めたいというのが究極の目的ではあるのですが中国側がテレビ放送と同程度のビデオカメラの持ち込みを個人には禁止しているいる以上どうしようもありません。
したがって持ち込みが許されている家庭用ビデオの中で、そういった画質に一番近いものを選択して撮影するという事になると思います。
以下はそういった視点からビデオカメラの選択の基準はどういうものであるかという事を書いてみたいと思います。
理論的にあるいは技術的に間違っている可能性があるかもしれませんが、一ユーザーとしてこういう性能であればという視点で書いております。


 暗いカメラは疲れます・・・

 よくビデオカメラの雑誌でカメラ毎のサンプル画像と写真の絵を並べている時がありますが はっきり言って画質の差は比較にならないほどの差があり、写真の画質は優秀です。特に日向と日蔭が同時に映っている場合、写真は両方が映っていますが ビデオカメラは全て影の部分が真っ黒です。ビデオカメラは写真に較べて 明暗差を受け入れる範囲が極めて少ないのです。(少しの差ではありません)この為 ビデオカメラとしては 明るい部分に露出を合わせますので暗い部分は真っ黒という事になります。その許容する範囲の違いが一番現れている商品が、使い捨て「レンズ付きフィルム」というカメラのたぐいです。このカメラは基本的に露出調整はありません。それでもそこそこ綺麗な写真が撮れます。それに較べビデオカメラは露出調整の無いものなど考えられません。露出調整をしても出来上がった映像は写真にかないません。

この明暗差を受容する範囲を写真では「ラチチュード」、ビデオカメラでは「ダイナミックレンジ」と言います。そして家庭用ビデオカメラでも一番売れている1CCDのカメラが 一番狭い範囲しか許容しません。これが3CCDのカメラになると2倍から4倍の範囲を許容します。従って露出がいい加減でも3CCDのカメラの方が肉眼に近い映像が撮影出来ます。3CCDカメラの方が価格的には高いのですが 実はこの3CCDカメラの方が初心者用という事になります。1CCDカメラの方が露出の範囲が狭いので上級者用です。この辺りはメーカーも雑誌等でも誤った情報をユーザーに与え続けてきているようで3CCDカメラが何か特別なカメラであるかのような印象をユーザーに与えているように思います。
松下電器がNV-DJ100が発売されて、この誤ったカメラ選びが多少は是正されてきたように思います。
そしてキャノンから1999年11月にXV1が発売され、ダイナミックレンジの狭さを感じさせる暗部の過度な暗さが無くなりました。家庭用ビデオカメラでは初めての性能のように想います。暗部の明るさは業務用ビデオカメラに匹敵する性能です。私が使用している10年前の池上のHC300という2/3インチのカメラを総合的には越えた画質をもたらしていると感じます。

ちょっと脱線しましたが ダイナミックレンジの狭さと画面の暗さは関係があるというのは判っていただけたと思いますが、この為のテレビ放送の映像に較べて家庭用ビデオカメラの映像は平均輝度が暗くなってしまいます。ですからこの平均輝度の違いが即 画質の違いとなっていて テレビ放送でも家庭用ビデオカメラで撮影したものはすぐ判ってしまいます。ただやはりメーカー毎、モデル毎にもいろいろです。私の個人的な感想を書けば 松下、ビクター系のカメラは露出が明るめで狭いダイナミックレンジでもなるべく露出を開けているように思います。ソニーだけは明るい部分が飽和(白トビ)するのを嫌っているようで暗めの画面となり視聴していて疲れる映像となります。どちらにしても、どちらかが間違っているというより 狭いダイナミックレンジをどう使うかというポリシーの違いだと思われます。

業務用ビデオカメラでは 3CCDが普通ですのである程度のダイナミックレンジと明るさがありますが性能の良いものと悪い物との差は2,3倍程度の許容度の違いはあるようです。しかし、業務用ビデオカメラの上級のカメラには奥の手があります。これは「ブラックストレッチ」という機能で画面の暗い部分のみを電気的に明るくする機能で、一度この機能を知ってしまったら 家庭用ビデオカメラの映像には戻れないかもしれません。この機能を採用しているカメラは業務用でも上位機が多いせいもあって この機能をオンにすればテレビ放送とほとんど区別は付かないと思います。この機能を持ったカメラのビューファインダーを右目で見て左目で肉眼で実物を見ると 相当実物と同じに見えるようになってきます。当然の事ながら画面の平均輝度も上がります。この機能が家庭用ビデオカメラに付加されない限り家庭用ビデオカメラと業務用、放送用ビデオカメラの画質差は無くならないと思います。
先日 池上通信機の業務用のHC-D45というモデルを購入したのですが、このモデルにはブラックストレッチの機能が付いていてその機能を最大にした状態でほとんど、TV放送と同じ程度の画質(明るさ)となりました。ビデオカメラを最初に手にして10年経ちますが初めての経験です。



 輪郭だけはあるが色が付かない

 8ミリカメラからDVカメラになってから家庭用ビデオカメラもかなり「色」が豊に乗るようになってきました。でもやはりテレビ放送に較べて今一歩ではないでしようか? 特に輝度の高い部分が、白く飽和してしまったり、逆に暗い部分に色が乗らなく輪郭のみが見えるという事を体験していないでしようか?

輝度が高い部分と低い部分でも普通に色が乗る事がビデオカメラに要求される機能です。この性能差はダイナミックレンジと密接に関連しているようで一般的にはダイナミックレンジが大きければ 色も余裕を持って再現するはずではあるのですが実際は ダイナミックレンジと色の再現性に関しては相関が無かったりします。ソニーのVX1000と松下のNV-DJ1では、ダイナミックレンジはVX1000の方が幾分優秀ですが 高輝度部の色抜け(白くなってしまう)、低輝度部の色抜け(真っ黒)はNV-DJ1の方が優秀でした。ダイナミックレンジの測定はモノクロで行いますのでこういっう結果も起こりうるわけです。

業務用のビデオカメラでもこの傾向はメーカーによってかなりあり、私が使っている8年前の業務用ビデオカメラ HC300(池上製)はかなり暗部でも色が乗ってきます。HC300とVX1000を並べて暗い部屋におき、段々と部屋を明るくしてテストしてみました。最低被写体感度はHC300は25ルクス、VX1000は10ルクスです。実際にやっとみると同じくらいの明るさでどちらも映ってきます。HC300は輪郭と色が同時に見えてきますが、VX1000は輪郭のみが(モノクロのように)映ってきます。HC300は色の粒子で輪郭が出来ているようにも見えます。最低被写体感度が違う事を考えると驚異的な差とも考えられます。(多分 この映像を見た人は業務用ビデオカメラに乗り換える人も出てくると思われます)

先日 購入した松下の一世代古いNV-DJ1はHC300とVX1000の丁度中間の色乗りです。
ただNV-DJ1はそのままですと中間輝度では色乗りが良すぎるケースもありますので注意が必要です。キャノンのVX1はほとんど業務機と同じ色乗りです。

暗部の色乗りの悪さはダイナミックレンジの不足と共に視覚上「画面が暗い」という印象をもつようになります。

 色の正確性

 ビデオカメラでの色が正しく出るか?という事もビデオカメラの評価の大事なポイントです。又家庭用ビデオカメラではフルオートのホワイトバランスの機能があるわけですがこの性能によってもこの色の正確性(忠実度)が変わってきます。

まずおさらいとして業務用カメラで多く使われてる「オートホワイトバランス」と家庭用ビデオカメラで多く使われいている「フルオートホワイトバランス」について書いておきます。(普通 家庭用ビデオカメラで言われるオートホワイトバランスはこのフルオートホワイトバランスの事が多い)

まず「オートホワイトバランス」ですがこの機能は カメラに今映っている映像の色が白ですよ と人間が手動で教える機能です。従ってこのスイッチを押す時には白い被写体が必要となってきます。私は常にカバンの中にコピー紙を入れておきます。この長所はこの操作でほぼ満足出来る色の忠実度を得る事が出来ます。ただ操作が面倒で、カメラマンが日蔭、被写体が日向という時には白い被写体を日向まで持って行く必要がありますのでいかなる時もこの方法で撮影出来るという事ではありません。その時はいろいろ臨機応変で方法を考えるわけですがこの辺りは省略します。

「フルオートホワイトバランス」ですがこれは周囲の環境に合わせてカメラの色合わせを自動的に行ってしまうという方法です。この方法で撮影する事が家庭用ビデオカメラでは一番多いのではないでしょうか?。しかしです、この方法で本当に色が合わせられるのかという事になるのですが 私にはどう考えても理屈から言って不可能としか思えません。 そこそこ機能するとは思いますが 被写体すべてが真っ赤なもの、同じように真っ青なものを映してどうやって色合わせ(ホワイトバランス)が取れるのでしょうか? そんなのは不可能としか言えません。青や赤にしても色々な青や赤があるわけですから原理的に不可能な方式では問題があるので家庭用ビデオカメラでも上位機は「オートホワイトバランス」の機能を設けているわけです。(手動のホワイトバランスの事です)
しかし入門用カメラなどはフルオートのホワイドハランスしかないわけですからカメラの色の忠実度−再現性を評価するという事はこのフルオートのホワイトバランスの評価をするという事と同じという事になってしまいます。

 以下はメーカー毎の個人的な印象です。

 ◆池上通信機
 業務用ビデオカメラのメーカーですが個人的には一番 色乗りに対して気に入っています。色乗りの良さは多くの人から定評があります。代表的なHL-55というカメラは多くの放送局で使われてるいると思いますし個人的には憧れのモデルです。現在はHC-D45という業務用カメラに人気があり、NHKも「放送用」として採用が始まっているそうで品薄という事です。当然ブラックストレッチもついています。

 ◆SONY
 放送用から家庭用まで多数のモデルがありますが個人的には家庭用しか興味がありません。当初ベータカムのUVW100を購入したのですが 画質の評判が芳しくない、ランニングコストが高いという事からハードケースに入ったままです。
 家庭用のビデオカメラですが 1CCDも3CCDもそこそこ色の忠実度は高いのですが緑の発色は弱く、鮮やかな黄緑色は全く出ません(注)。また常に画面が暗く 色に鮮やかさが足りません。又 低輝度部分の色乗りも悪く 暗くなるとモノクロ映像となってきます。個人的には今後 購入したくありません。

 ◆松下
 あまり色に対する忠実度は高く無いようですが色乗りは高く、見ていて楽しくなってきます。色乗りが高いという事はデメリットではなく編集時に多少この色乗りを下げる事でかなり自然な発色となります。(SONYのように色乗りの悪いものを電子的操作で高くするよりは良いと思われます)NV-DJ100はNV-DJ1に較べて多少色乗りも大人しくなったのですがそれでもVX1000よりはずっと良いと思います。。松下全体で特筆するのは緑の発色の素晴らしさで、SONYとは対象的です。

 ◆CANON
 今までキャノンは8ミリビデオカメラばかり使用していて1/3インチCCDを使用したものは1CCDビデオカメラとしては大変素晴らしいダイナミックレンジを持ったものでしたがDVの最初のMV1はその素晴らしさを全く感じられない、暗部が過度に潰れた情けない画質で残念なものでしたが、この程、3CCDのXV1を購入しましたら以前の画質を彷彿とさせる民生機としては大変素晴らしい画質でした。やっと古い業務用ビデオカメラと画質の比較の出来る初めての民生用ビデオカメラでした。

 ◆VICTOR,SHARP
 残念ながらほとんど使った事がありませんが画質という面から見ると芳しくない話しのみ聞こえてきます。以前 VICTORのGR-DV1を中古で購入しましたが あまりにも酷い色の忠実度で現在使っていません。


 疲労感の少ない、情報量の多いカメラ 


ではビデオカメラの購入時の画質の面からのポイントをまとめとして書いてみましょう。

0, 3CCDである事
1, 画面の平均輝度が高い事
2, 逆光補正スイッチがついている事
3, 画面の明るい所にも、暗い所にも色がキチンと出ている事

以上です。理由については今までかなり書いてきましたので割愛します。良いカメラは長時間の視聴も疲労感無く見られます。そしてこの条件を全てを満足するカメラは家庭用ビデオカメラではほとんど無いと思われますが 現在 この条件に一番近いものはキャノンのXV1です。このモデルだけは家庭用ビデオカメラ特有の暗部の過度の暗さがありません。

家庭用AV機器の中でビデオカメラほどモデル差、メーカー差の大きい商品は無いと個人的には思っています。そして この条件の中に「DVカメラ」である事という条件が無い事に留意して下さい。どんなにDVの性能が良くてもカメラが被写体の情報を電圧という情報に変換出来なければ記録されないわけで、一部のHi8のカメラが現行のDVビデオカメラの画質を上回るなどという事が実際に起きています。「DVカメラは画質が良い」のは一般論としてはありますがある特定の製品に当てはまるかどうかは別です。




その他


 画質の後退!

 電子機器は大概、時間の経過と共に性能が上がり価格が下がるというのが暗黙の常識としてあると思うのですが、どうもビデオカメラだけは時間経過と共に画質の低下が起きているのではと思う事をしばしば感じます。

テレビ放送で平均輝度の高い、明るい映像を見る事が出来ます。使われているビデオカメラのほとんどがCCDカメラとなっていますが、以前はプランビコンのカメラが使われていて、今より更に明るいカメラが使われていました。今でもプランビコンカメラを使っている放送局もあるようですが。このカメラですとダイナミックレンジが1000%とか1600%という大きな明暗差を許容しています。これに較べ今のカメラですと600%ぐらいしかなくそれだけ暗い映像となっています。何故ダイナミックレンジの小さいカメラでも使われるようになったかと考えると単に作られていないというのが大きな理由ですが、更にプランビコンのカメラは電源を入れてエージングをしないといけない。メンテナンスが煩雑に必要と使いにくい点があり、その為CCDカメラとなってきたようです。そして結果として画質の低下が起きたという事になってしまったようです。因みにダイナミックレンジは家庭用1CCDカメラで100-200%で同3CCDカメラで400%ぐらいです。−−−それだけ暗いわけです。

家庭用ビデオカメラについては このCCDデバイスが年々小さくなってきてやはり画質の低下が起きています。小さくなるという事はそれだけメリットもあるわけで、光学部のサイズも小さく出来ますし、小型化によるコストダウン、そしてレンズのズーム比の拡大というメリットがあります。しかし年をおって1/2インチ、1/3インチ、1/4インチと小さいCCDとなり画質という面から見ると悪化しています。特にダイナミックレンジは小さいCCDほど悪く、又小さい事によって感度も低下します。この事と1/3インチCCDの多くが8ミリカメラに採用され、1/4インチCCDがDVカメラに採用されていますが、DVの高画質さの為にこのCCDのサイズの差による画質の差がはっきりしないという事になっています。同じ8ミリカメラやDVカメラ同士の比較では はっきりとCCDサイズの違いによる画質の差が判ります。個人的にはキャノンのUC-L1HiとMB-J10というモデルで体験しています。約1年の発売時期の差がありますが画質は最初に出たUC-L1Hi(1/3インチ)の方が画質が良くMB-J10(1/4インチ)を購入した時はショックでした。

こういった画質の低下はカタログ等では書きにくい(書けても書かないでしょう)ので表だって比較されませんの2台を同時に比較しないと判りません。

1999/11/11